背表紙を見ると、もう文字が薄くなって読みにくいほど日に焼けてしまった一冊の絵本。よく見ると「いちご」という文字が読める。まだ私が学生だった頃、デザインの授業の課題がなかなか進まず、何か参考になるものはないかと、本屋をぶらついていたところ、ふと目にとまったのが、この絵本。
表紙に描かれたいちごの絵がかなり大きくて確かにいちごなのだけれど、 食べ物以上の何かを感じて裏表紙を見てみたところ、今度は小さないちごが描いてある。 それが妙にリアルな絵で、デッサンの授業でも劣等性だった私は「う~ん、絵本なのにすごい!」 と関心するばかり。パラパラと中を見ると、原色のページや、白いページやらが目に飛び込んできて、 「なに、これ!なに?」気がついたら、絵本をにぎりしめレジに並んでいた。家に帰ってから、 手にとってふと表紙のカバーをはずした時、またびっくり。赤い!一面真っ赤な表紙!見事にいちごだ!
話の内容は、いちごが苗から育って実ができるまでの話といえばそれまでなのだが、その絵本からは、 広い宇宙の中でたまたま美しい地球に発生したいちごが、宝物のような命をつないでいく壮大さを感じてしまったのだ。 一面、灰色の雪のページ、紺色の星空のページ、真っ青な空に意味ありげな黄色い雲が迫ってくるページが続く。 その後、いちごの苗が大きくなっていく様子がさまざまなアングルから描かれ、ドキドキしてきたところに、 バーンと見開き一面が真っ赤なページになった時には、のけぞってしまった。そうか、こうしていちごは赤くなるのか! と妙に納得させられてしまった。
まだまだそれだけで終わらないのがこの絵本のあなどりがたいところ、「赤い実の真ん中には太陽のとどかない白い冷たい世界がある」このフレーズ!いちごの見方がひっくりかえるフレーズ。大きく描かれたいちごの断面図と一緒に、一週間は頭にこびりついて離れなかった。絵本が、「すぐにでもいちごを買ってきて真っ二つに割ってみたら?」とささやき、それ以来いちごを食べる時には、洗った後必ずふたつに割って食べることにしている。