この本に巡り合ったのは、ある本に解説が載っていたのを読んでから3年はたっていただろうか。 イラストがかなりすばらしいと書いてあったことと、「インディアンの昔話」と副題にあることが、 手に入れたい衝動をかなり刺激した。「昔話をたくさん読んだことがある子どもは、人生の苦難にあっても、 くじけることはない。」と言う話を聞いたのは、ずっと後のことだが、インディアンなら不思議な話が展開しそうだと イメージだけが先行した。
本屋で表紙を見てどっきり、それより引き付けられたのは、見開きページだった。 グラデーションの幾何学模様がちりばめられていて「これが昔話の見開きか?」なんと鮮やかな色の絵本なんだろう。 全ページがグラデーションで展開されている中で主人公の男の子だけは、黒一色で描かれてある。
男の子はインディアンの孤児で本当は太陽の神の息子。 父を尋ねて、弓矢に変身し太陽に飛んでいくというのだから、 やっぱりインディアンではないか。ライオンの部屋、へびの部屋、はちの部屋、 稲妻の部屋を通り抜けた男の子は、見事にカラフルな色を身にまとって、太陽の子として変身をとげて出てくる。 昔話には、繰り返しがよく出てくるが、次々と恐ろしい部屋を通り抜けること4回がちっとも飽きない。 出てくる男の子に、そのつど拍手喝采できるのは、男の子が出て行った後の、ライオン、へび、はち、稲妻の 「参った」という姿の描き方のせいなのかも知れない。
その後、十何年か後にふと思いついて、この本を4,5歳の子ども達に読んだところ、 腕白で手を焼いていたY君が、いつもより真剣に聞いていたかと思うと、 「先生、すごい部屋だなー。この男の子かっこいいよ。」とうれしそうに言う。 「よし、この部屋つくってみる?」ということになり、4つの部屋を、飛び出す絵本風にして、 表紙をつけ、子ども達それぞれが持ってかえるようにしようということになった。 不器用なY君はなかなかうまく作れない。いつもなら、「もういいよ。先生やって」と助けを求めてくるのに、 今回はなかなか頑張っている。はちの部屋では、12匹のはちを描ききった。 「最後まで自分でやったY君もかっこいいよ」と声をかけると、「ふんっ!」と鼻息荒く、ご満悦で家に持って帰った。
この絵本の最後は男の子が村人と共に、「いのちのおどりをおどった」とあり、 初めて手にとった時には、私の貧困なイメージをフル活動させても、せいぜい古いアメリカ映画に出てくる、 羽根をつけたインディアンが踊っているところしか想像できなかったが、それ以来、インディアンがY君の顔になり 「ヤッホッホー」と言いながら、頬を真っ赤にして飛び回っている姿を想像してみたくなった。
Y君はもう小学校高学年のはず、かっこいい男の子になっているだろうか。 Y君にとっての、これから入っていかなくてはならないライオンや、へび、はち、稲妻の部屋はどんなだろう。