バーニンガムの傑作クリスマス絵本は、サンタクロースの苦労話である。 なにしろサンタクロースは世界中の子ども達に贈り物を届けるのだから、さぞかし大変なことだろう。そう思うのは、子ども達ばかりではない。大人だって思う。そこで疑問がわく。本当にどんな子どもにも漏れなく配り届けているのだろうか・・・そうだとしたら、サンタクロースはかなり責任感の強い人なのだろう。

そうなのだ、バーニンガムのおじいさんサンタはどんなに苦労してでも、責任をもって、贈り物を届けてくれる。それはもう、気の毒なくらい。
お話は、おじいさんサンタが、世界中の子供たちに贈り物を届けて、疲れきって帰ってきたときから始まる。配り忘れた贈り物があったのだ。おじいさんサンタは、息が止まるぐらいに驚く。絶対に届けなければ。ここで第一関門が、立ちはだかる。トナカイ達が、疲れから気分が悪くなって、ベットに入ってしまったのだ。責任感の強いサンタは冷たい冬の夜の中を、袋をかついで、とことこ歩き始める。めざすはロリー・ポリー山のてっぺんに住む貧しい少年、ハービー・スラムヘンガーの家。あまりに遠い・・・



しかしサンタは、なんとか次々と協力者を見つけ、同じフレーズで事情を説明して助けてもらいながら突き進んでいく。これで大丈夫!クリスマスの朝までに間に合うかも、と思っても、次々に難関が襲いかかる。おじいさんサンタ頑張れ。
バーニンガムの絵が、協力者の温かさとサンタの孤独をうまいリズムで運んでいく。数々の予想もしない(・・・いや予想通りの)難関を乗り越え、ついにロリー・ポリー山にたどり着き、ハービー・スラムヘンガーに贈り物を届けることができる。よかった!



「でも、どうやって帰るの?」当然の疑問。帰り道でのおじいさんサンタの苦労といったら、またまた大変なものだ。考えうる限りの移動手段を駆使して帰っていく。それを、見開き1ページで、心ゆくまで納得させてくれる、バーニンガムの特別のアイディアとユーモアは、尊敬に値する。このページは子どもたちの人気の的である。どの方法も、子どもたちが、日ごろやってみたいものだらけだからだ。このページを楽しみにしながら、何度も絵本を開きたくなる。

おじいさんサンタは、責任を果たして、明け方にやっと家に戻ってくる。疲れていても、トナカイたちの様子を見ることを忘れない、やさしいおじいさんサンタに、心からご苦労様の思いがこみ上げてくる。やっと、ベットにもぐりこむことができた頃には、夜が明けて、ハービー・スラムヘンガーは、贈り物を楽しむことができるのだ。

この絵本を読んだなら、どの子どもも、きっとサンタクロースは忘れずに間違いなく、自分のところに贈り物を届けてくれると、確信できるだろう。

私が子どもの頃にも、サンタクロースは確かに来た。板塀に囲まれた平屋の市営住宅、昭和35年頃のクリスマスの朝、練炭アンカの冷えかけた温もりをたぐり寄せながら、目が覚めたとき、枕元に、膨らんだ靴下があった。急いで弟を起こす。靴下の中には、ゆでたまごと、森永の板チョコ(当時は、お菓子屋の上の方の棚に、一枚ずつ並べられていた)が入っていた。突然現れたサンタクロースの贈り物。うれしかったと同時に、「よかったねえ」と言った父と母の笑顔がなんだか不思議だったのを覚えている。・・・・まるで、「三丁目の夕日」だ!



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