この話はフランスの民話だというが、トミーデ・パオラはイタリアのソレントに舞台を置き換え、ルネサンス初期の時代設定として語りかえている。
ジョバンニは貧しい少年である。だが、すばらしい技をもっていた。なんでも空中に投げ上げて、くるくると上手に回すことができたのである。芸は身を助ける。ジョバンニは、次第に道化芸人として出世し、公爵や王子さまの前で、得意の技を披露するまでとなる。さまざまな色の玉を回して、虹をつくりだし、最後に金色の玉を投げ上げながら、こう叫ぶのだった。「空に輝くお日さまとござあい」人々は微笑み、拍手喝采でどよめく。



しかし、栄光の日々は次第に翳りをおび始める。年老いたジョバンニは、ついに金色の玉を取り落としてしまう。みじめになり果てたジョバンニの行く末は・・・
最後にやっとたどり着いた故郷の教会で、ジョバンニは、天が与えたもうた生涯をかけて全うすべき技、あるときは生活の糧となり、あるときは人々の喜びを誘い、またあるときは名誉の種となった「空に輝くお日さま」を神様へのささげものとして演じるのであった。
そしてついに、ジョバンニが起こすクリスマスの奇跡をもって、驚愕の幕が閉じられる。



トミーデ・パオラの絵は、細部にわたって丁寧で、限りなく美しい。背景の構図は油断がなく、特に人物については、登場人物はもちろん、観客などその他大勢の人々にまで、ひとりひとりに人格が感じられるような描写で、命を与えている。最後のページ、マドンナとその子イエスの像は、クリスマスにふさわしい荘厳なまぶしさである。この絵本に対しては、どんな賛辞を並べても、語りつくせない、とうてい追いつかない・・・ひとつの芸術作品であることは間違いない。

年の終わりに近づくクリスマスを控えて、またこの絵本をめくりながら考える。自分には、人生において、全うするべき何かがあるのだろうか。今年一年、自分に忠実に成すべきことをしてきたのだろうか。私のような凡人にでも、ぼんやりと、なんとなく、そんな反省じみた思いがこみあげてくる。

クリスマスに、読みたい絵本はたくさんあるが、子どもたちに読み聞かせなくても、こういう絵本があるのだということを、知っていて欲しい。



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