一匹のねずみがいる。小さくてきれいな灰色のねずみ。子どもたちは写真だけに、一目見た瞬間に絵本に乗ってくる。
「ねずみが、いえをさがいています」と、ストレートに始まり、「こんなところはどう?」と、呼びかけていく。見ているものはすぐに、話の中のねずみと一緒に家探しに出かける。というわけだ。ねずみは別に演技をしている訳ではない。ただ身の周りの風景の中にいる。好奇心旺盛で、いたずらな小さな子どものように、くるくると動きまわっている。


文章は、候補にあげられた棲家になりそうなところを、「・・・・すぎる」と、否定しながら進んでいく。なかなか見つからないねずみの家。理想の棲家は、否定形の言葉のオンパレードでリズミカルにまとめられている。途中で挟まる否定最上級ともいえる言葉が、話を引き締めているのも見逃せない。
最後に見つけた家の中にうずくまる、ねずみの顔は、まっすぐにこちらに向けられている。「どう、この家?」とでも言うように、自慢げに見えて、子どもたちの気持ちを代弁しているようだ。



子どもたちと、画用紙でねずみを作る。丁度、手にかぶせられるように、ベルトをつけた。自分が作った、いろんな耳の、いろんな顔のねずみを手に挟んで、みんなでねずみの家探しごっことなる。

子どもたちはねずみになりきって、部屋を走り回る。「ここはどう?」と、絵本の写真を見せると、「いや、ここは寒すぎる。」と一斉に答える。また走り回る。絵本をめくって「ここはどう?」「いや、ここは広すぎる。」何度か繰り返していくうちに、絵本を離れて、自分達で靴箱の方に行くと、誰かが、「ここはどう?」と聞いた。みんなちょっと考えていた。R君が真剣な顔で答えた。「いいや、ここはくさすぎる。」笑い転げる子どもたち。



私は完全においてけぼりで、しばらく子どもたちが、部屋中を走り回って、次々と棲家候補を探索するのを見ていた。どうしても参加しなければ、こうなると、私の役目は決まっている。ねこだ!「にゃお~」子どもたちがにげる「とんでもない!」と叫びながら・・・・何をしているんだろう。お迎えのお母さんがあきれていた。

この絵本には続編があと二冊あって全部で三冊になる。

「ねずみのほん 1」 ねずみのいえさがし
「ねずみのほん 2」 ねずみのともだちさがし
「ねずみのほん 3」 よかったね、ねずみさん

家が見つかったねずみは、次に友達を探しに行く。友達が見つかったねずみは食べ物を探しにいく。という具合に。美しく訳された日本語は洗練されていて一部の隙もない。ストレートで単純な言葉で豊かな内容を伝えている。お母さんたちにも、是非深く味わってほしい。



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