日本の代表的な絵本作家が、ほとんど40年近く前につくった絵本である。当時としては、かなり斬新な、絵の描き方だったのではないかと思う。主人公はトラの子。細い輪郭線と色つきの顔、手足、シッポだけでできている。名前は「とらた」・・・そのまんまじゃないか。想定は、3歳ぐらいなのか。その行動は、かなり幼いが、とても前向きである。小さな子どもが、初めて雪に触れたときには、本当にこの絵本風に思うものかもしれない。

「とらた」は、朝、椅子に座って、熱いミルクを飲む。運動靴を履く。トラなのに・・・。不思議な絵の表現法で、それをおかしくは思えないどころか、小さい子どもは、すぐにとらたに乗っかって、お話の中に入っていく。その瞬間に、前に座って絵本を見ている子どもたちみんなが、トラのかぶり物を身につけているような気がして、思わず、目をこする。
子どもたちは、「とらた」と一緒に、雪とコンタクトを開始する。ああして、こうして・・・。それから、雪だるまと戯れる。初めて雪と出会ったときの小さな出来事が、「とらた」を通して、楽しく経験できる。


この絵本の魅力は、些細でもドラマチックなお話の内容にもあるが、私は、巧みな絵の表現方法に惹かれている。
「とらた」の絵ももちろんだが、びっくりするのは、雪で埋もれた、「とらた」の砂場だ。白いページに、黒く細い線で四角に囲ってあるだけの絵。「ここが、すーなーばー」と言いながらぐるりと鉛筆で描いただけのような・・・。確かに雪は白いのだから、これで十分といえば、十分なような気もする。突然現れる雪だるまも、ほわんほわんとした一本の線で描いてある。こんなに簡単そうに描いてあるのに、お話にのって、楽しむことができるのは、子どもの想像力が、もともとはすごいものだという証明になるだろう。
途中で1ページだけ挟まる一面水色のページが、スパイスのように、味付けをしていて、それにハッとさせられた後は、雪が溶けて現れてくる砂場の表現に、また驚く。雪が溶けていくという「引き算」の意味を、灰色の絵の具をぬるという、「足し算」の表現をとっているのだ。まさに、画家ならではの発想だ。

まあ、読む側も、読んでもらう側も、そんなことまで考えてはいないだろうが、この絵本は、読めば読むほど、絵の効力が身にしみてくる。「とらた」はこんな風に描いてもらって幸せものだと思う。


小さい子向けの、雪に出会う絵本は、「ゆきのひのうさこちゃん」や、「ゆきのひ」など、名作はあるが、さっぱりとした清涼感のある、「とらた」くんの「はじめてのゆき」を、まずは読んであげたい。

「ゆきのひのうさこちゃん」
デイック・ブルーナ 作・絵
石井桃子 訳
1964年 福音館書店
「ゆきのひ」
エズラ・ジャック・キーツ 作・絵
木島始 訳
1969年 偕成社


※絵本の画像は、出版社の了承を得て、掲載しています。




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