私の本箱にある図鑑は、ポケットサイズの図鑑である。娘のために、20年前に買った。イギリスに赴任することが決まったとき、現地の学校で小学生になるだろう娘にとって、ゆくゆくは、絶対に図鑑が必要になるだろうと思った。娘が4歳のときだ。本屋の図鑑コーナーには、それは様々な図鑑が並んでいた。何冊かのセットになっていて、高価なものであり、分厚くて重い。本棚に、美しく重厚に並んでいて、それを眺めているだけでも、圧倒される。家に置いたならば、本棚から取り出して、見ようとしたときには、なんらかの心構えがいりそうだ。ため息が出る・・・と、小さな図鑑が目に入った。「学研の観察図鑑」と書いてある。小さい子も手に取りやすいポケットサイズ。一目見て「これだ!」と即決で決めた。これなら、娘専用の図鑑になってくれるだろうと思った。
当時は、全部で15冊あったが、その中で、11冊を手に入れた。項目別に分かれていて、その分け方も気に入った。例えば、植物は、「野山の草花」と「庭の花」に分かれているし、魚類は、「海の生き物」と「淡水の魚と生物」に分かれている。自然のものだけでなく、「人の体」や「天体・宇宙」といった子どもに知っていて欲しいものも含まれているのも、興味深かった。今でこそ、図鑑は、いろいろな分類の仕方で出版されているが、当時としては、斬新な気がした。




そんなにもすごい種類のものが、載せられているわけではない。説明の文章も、小さい子どもが自分で読めるようなものではない。しかし、その大仰でない具合が、とてもいい気がした。写真は、まぎれもない本物が、いい形と向きでおさめられており、すごく分りやすい。
図鑑は、調べたいときに、すぐに開いて見られるものがいい。退屈なときにペラペラとめくって見たり、お気に入りのページをじっくりと眺めたりするのがいい。そんな私のポリシーにぴたりなものだった。いい図鑑が手に入ったものだと、ホクホクしながら、重いのを我慢して家に持ち帰った。それからは、常に娘の本棚に、絵本と一緒に並べられていた。

はたしてこの図鑑は、役に立ったのだろうか。

お手軽すぎたのか、小さいときには、お買い物ごっこの材料になっていたし、一時は、友達と遊ぶときの定番だった「お家つくり」で、屋根に見立てて被せた毛布の重しとして、活躍していたときもある。でも、いつしか、その家の中で、おやつを食べながら、友達と頭をくっつけて、ポケット図鑑をめくっているのを見かけるようになった。長いドライブのときや旅行に行くとき、リュックの中に入れてあったこともある。お気に入りは、「天体・宇宙」と「人の体」と「大むかしの生物」だった。なぜ、「野の草花」ではなく、「鳥」でもなく、「昆虫」でもないのか。「この子の興味は、いったい何なんだ?」と考え込んだときもある。娘は、それぞれの図鑑の特定のページを覚えているらしい。今でも、確かにそのページは、妙に折り癖がついている。
この図鑑は、いつの間にか、娘の部屋から私の本棚に移ってきたが、今では、私が、仕事で使うことが多くなった。
現在、この図鑑は、改訂されて装丁も変わり、新しい分野のものも加えられている。


ポケット版学研の図鑑 学習研究社
「昆虫」 監修:岡島秀治 / 「鳥」 監修: 小宮輝之 / 「動物」 監修:今泉忠明 / 「水の生き物」 監修:武田正倫 / 「カ ブトムシ・クワガタムシ」 監修:岡島秀治 / 「フィールド動物観察」 監修:小 宮輝之

ポケット版学研の図鑑 学習研究社
「植物」 監修:高橋秀男 / 「飼育・栽培」 監修:中山周平 /「鉱物・ 岩石」 著:千葉とき子 著:松原聡 著:白尾元理 著:高桑祐司 /「地球・宇宙」 著:天野一男 著:村山貢司 著:吉川真 / 「星・星座」 監修:藤井旭





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