昆虫 / 森の草花 / 木の図鑑 岩崎書店 長谷川哲雄 作・絵

長谷川哲夫さんは、このシリーズで、植物と昆虫関係を描いている。「のはらずかん」のほかに、「昆虫」「森の草花」「木の図鑑」どの絵も、私が大好きな、ボタニカルアートを思い出させるイラストで、すばらしく細密である。額に入れて部屋に飾ってもいいぐらいだ。絵本において、見開きがいかに大切か、これまで何度か、訴えてきたつもりだが、「森の草花」「木の図鑑」の見開きを見て、息を飲んだ。作者のスケッチブックが丸ごと載っているのだから。スケッチしながら書いた、自筆の解説メモ、花の大きさをミリの単位まで、書き込んである。こんなに大切なものを、見開きに、惜しげもなく使っている大胆さは、他に類を見ない。これを見るだけでも価値がある。


鳥の観察図鑑 岩崎書店 国松俊英 文 薮内正幸 絵
野や山にすむ動物たち / 海にすむ動物たち岩崎書店 薮内正幸 作

子どもの動物絵本を、たくさん描いている、薮内正幸さんの絵による「鳥の観察図鑑」は、ただの図鑑で終わってはいない。そこには、鳥たちの生活の物語がある。出てくる鳥たちが、ただポーズをとっているのではなく、それぞれの食べ物に向かっている様子が描かれているのだ。確かに、鳥は獲物を求めてほとんどの生活時間を過ごしているはずだ。「野や山にすむ動物たち」「海にすむ動物たち」も、生き物を描かせたら、右に出るものはいないといわれる作者の、上品できちんとした表現に、安心感を覚える。


海の魚 / 川のさかな 岩崎書店 渡辺可久 作・絵 広崎芳次 監修

魚に関しては、渡辺可久さんの「海のさかな」と「川のさかな」が圧倒的な迫力だ。表紙には、たくさんの魚が、みんな同じ方向を向いて、所狭しとぎっしり並んで泳いでいる。その整然とした行列から目が離せない。絶対に中を見たくなる。



やさいのずかん 岩崎書店 小宮山洋夫 作・絵
小宮山洋夫さんの「やさいのずかん」も、ただの図鑑ではない。長年、野菜を、実際に育ててきた作者らしく、野菜の成長に沿って、ページが進む。種のページは、一面がすべて種だ。野菜の種ってこんなものなのか! つぎのページは、一面がフタバだらけ。フタバの間から伸びる本葉が、ひとつひとつ違うのがすごい。葉っぱだけがならんでいるページを過ぎると、花だけがずらりと並ぶという展開。ついに、できた野菜が登場するページには、縦や横に切った野菜の断面図まで描いてある。豆も隊列を作って並んでいるし、地下にできる野菜のきれいな並び方は、怖いくらいにどきどきする。


他にも、変わったところでは、「ジャングル」「くだもの王国」「森のきのこ」「鳥の巣の本」と、どれもこれも、どんどん深みにはまる。



ジャングル 岩崎書店
松岡達英 作・絵
松岡達英さんの「ジャングル」は、作者が語りかける、「コスタリカのジャングル歩き」物語になっていて、絵本の様相が濃い。ジャングルに入っていく前の準備から、帰ってくるまでが、懇切丁寧に語られている。ページから、溢れんばかりのジャングルの様子は、本を閉じても、極彩色の鳥の鳴き声が、聞こえてきそうだ。見開きは、これまた、作者のメモ書きとスケッチで、埋め尽くされている。その量は半端じゃない。この人は本当に、昨日、ジャングルから帰ったばかりなんじゃないかと錯覚しそうだ。


「森のきのこ」は、メルヘンチックでシックな見開きで始まる。ページをめくっていくと、図鑑でありながら、イギリスの絵本のような、妖精や動物が、きのこの世界を案内してくれる。小林路子さんの、きのこへの並々ならぬ興味が、こちらにも乗り移ってきて、森の中に、ひっそりと息づくきのこたちに、会いに行きたくなる。
森のきのこ 岩崎書店
小林路子 作



くだもの王国 岩崎書店
さとうち藍 文 松岡達英 絵
「くだもの王国」は、目次のページの魅力にやられてしまう。松岡達英さんの遊び心から生まれたのか、子どもが夢見そうな、くだものてんこ盛りの、不思議な木が、はえているのだ。こんな木があったらいいのに・・・・。取り上げられているくだものは、どれも身近なものばかり。だが、さとうち藍さんによって、たくさん書かれている解説が、ありきたりでないのが、かなり面白い。くだもの雑学一覧のようだ。丁度、 夫が台湾からマンゴーを送ってきたので、調べてみた。好奇心旺盛な実家の母から、「マンゴーはどうやって剥くのか」とか「木はどんな木なのか」という質問があったからだ。あきれたことに、母は、あまりに面白い種なので、庭に埋めてみたというのだ。食べるときは、三枚におろすこと、ウルシ科の仲間だというから、万が一、芽が出たとしても、育てない方がいいと、知らせてやった。


「鳥の巣の本」は、すずき守さんが、鳥自体ではなく、彼らの究極の生活の場である巣を通して、命の不思議を伝えようとする力作である。鳥の巣づくりは大変に微妙なものと聞く。ここまでのものが描けるということは、観察の実体験が、かなりなくては描けないだろう。作者が、辛抱強く身を潜めて、息を殺しながら、巣を観察している様子が目に浮かんで、胸が熱くなる。文章は、とても謙虚なニュアンスで、作者の鳥への敬意を感じる。
鳥の巣の本 岩崎書店
鈴木まもる 文・絵


こうして、それぞれを紹介していたらきりがないが、まさに「絵本図鑑」という名にふさわしい、いや、それ以上になんとか言い表す言葉がないものかと思うほどの、名作本ばかりである。図鑑と絵本の、最高のコラボレーションといえる書籍だ。


こんな本が見られるのだから、期間限定の図鑑ブームしか知らない私の子どもの頃に比べれば、今の子どもたちは幸せだと思う。
大きな本屋でも、図鑑売り場の端っこで窮屈そうに、並んでいることが多く、背表紙を見ただけで、積極的に手にとって見る子は、少ないかもしれない。惜しいことだ。このような本が、出版されていていることを、お母さんたちは、絶対に知るべきだと思う。そして、この本を、親子で楽しむことができたなら、ひとつの、夏休み自由研究になるのではないだろうか。
子どもに図鑑を強要することはないが、図鑑を眺めること、読むことが、いっときでもマイブームになって欲しいと、切に願う。
最後に、この絵本図鑑のそれぞれの「あとがき」は必ず読んでいただきたい。
親として、大人として。





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