「クリスマスって何の日?」と子ども達に聞くと、「サンタさんが、プレゼントをくれる日」とまず言う。 しかし、本当のクリスマスの意味を、意外に知らない。そういうときには、「キリスト生誕」のお話をすることになるが、これに関しての絵本は、案外少ない。 子ども達に一番親しみやすいのは、「クリスマスってなあに」という、ディック・ブルーナの絵本である。とても簡潔で、分りやすい絵本だ。


私のとっておきは、意外なところで、見つけた仕掛け絵本である。クリスマスプレゼントを探しながら、仕掛け絵本コーナーを、なんとなく見て回っていたときに、 大好きなトミー・デ・パオラの絵が、目に飛び込んできた。仕掛け絵本になっているなんて!もともと、飛び出す仕掛け絵本は、妙に、飾り物感やおもちゃ感があって、私としては、 鑑賞用もしくは、紙工作的な興味から、教材用によく手に取るものだった。これまでにも、何冊かのコレクションはあるものの、読み聞かせる絵本としては、扱わないふしがあった。 だが、この絵本に限っては、大当たり!すごく特別なものを、手に入れた快感があった。


「ぶたいしかけえほん」と銘打っているだけあって、絵本の形態はとってない。表紙は、観音開きで、両側の扉が、リボンで結ばれている。 今まさに、そのリボンを開こうとしている天使が、両側に描かれている。「くりすますものがたり」の題のとおり、トミー・デ・パオラの絵ほど、宗教的な品位があり、 クリスマスにふさわしいものはないと思う。
うやうやしくリボンをほどく。扉を開けて本を立てると、開いた表紙が、両側で支えになり、ミニチュアの舞台が出現する。この絵本は、キリスト生誕物語が、 六場面の舞台で構成されているのだ。




表紙を開くと、まずは物語を、簡単にまとめた序文が書かれている。ここは、幕が上がる前といったところだろう。
今度は、上から下にページを引っ張ると、第一場面が立ち上がる。舞台上には、天使ガブリエルとマリア登場。「受胎告知」である。ガブリエルは、ゆりの花を持ち、マリアは、跪いて両手を胸に当てている。ヨーロッパの美術館にある名画と同じ解釈だ。




第二場面は、マリアとヨゼフの旅立ち。第三場面は、ベツレヘムの宿。ページをめくるたびに、仕掛け絵本の醍醐味である、 建物の立ち上がりが、ふんだんに盛り込まれている。文章は2、3行程度の簡潔なものに抑えられていて、舞台の下方につつましく収まっている。
羊飼いや三人の博士が啓示を受ける場面には、引っ張ったり、回したり、少し派手な仕掛けがあるが、そんな仕掛けに、気を取られている場合ではない。ここでは、全体の構図のバランスのよさと、崇高で神聖な雰囲気を、堪能して欲しい。




最後の馬小屋の場面は、仕掛けと思われるものは、ひとつもないが、聖なる夜の静かな喜びが、舞台上に満ち溢れている。


仕掛け絵本は、立体的なつくりで、本来は、あっと驚く仕掛けが、楽しいものである。そして、それを楽しむことに意味があるものだと思う。 子ども達に、じっくりと読み聞かせるものではないかもしれない。しかし、この仕掛け絵本に限っては、舞台をめくりながら、静かに読み聞かせてみたいものだと思う。


毎年12月、クリスマスになるまでの期間、リビングに飾って、まるで、アドベントカレンダーのように、何日かおきに場面をめくっていく。クリスマスには、最後のキリスト誕生の場面になるように。 絵本を、めくって楽しむときには、クリスマスキャロルが流れているといいなあ。と、一年ぶりにCDボックスを探す。




日本では、クリスマスだからといって、お祭り騒ぎが過ぎるような気もするが、本当のところ、クリスマスは、もっと静かで、神秘的な何かが、大気の中に流れているものなのだと思ったりもする。





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