工場見学

NO.7 Hamamatsu,Japan/浜松にあるプリント工場を訪ねました。


浜松のある遠州地方は古くは棉の産地として知られ、明治以降は「浜松ゆかた」をはじめとする小幅織物で栄えました。
そうした繊維産業の一環で、多くの染色やプリントの加工所が生まれました。

しかし海外への生産シフトやバブル経済の崩壊などで、浜松の繊維産業の規模は、現在では最盛期の半分以下に縮小したそうです。
現在では、独自性を出すことに皆さん腐心されていて、また製織所、加工所の連携を強化することによって 、お客様のニーズを直接、的確に応えようと努力されています。
今回は、リネンの製織でお世話になっている浜松の工場からご紹介していただきました。

染工所と聞いていたので染色工場を想像していたのですが、単なる染色ではなく、プリントを含めた多種多様の「染め」技術を見学することができました。こちらの知識不足のため、ただ感心するばかりとなってしまいました。




「最初に拝見したのは自動でスクリーンプリントをする機械、実際のプリントを始める前のテストランの最中だったのですが、途中に乾燥させる場所があったりと、機械自体が巨大で、生地は長い距離をベルトにのって動いていきます。
オリジナルの柄をプリントしようとすると、いつもコストとロットが問題になりますが、相当のテストランが必要とのことで、やはり小ロットでは難しいことがよくわかります。




こちらは走行式とよばれるもので、もっとハンドプリントに近いプリント機械です。スクリーンをセットして、染料を流し込んでいます。この機械もスクリーンは動かずに、生地のほうがベルトにのって移動していきます。

天然繊維は斜行していたりして、生地をはってセットするのに特に気をつかうそうです。




ロータリースクリーンプリントは休み中でした。訪れたのは大変な集中豪雨の後で、雨漏りにより、機械を一部とめざるをえないような状況の時期でした。この円筒の内側から染料が出て、連続的なプリントが可能で、プリント速度もスクリーンに比べるとかなり速いとのことです。ただ円筒の大きさは一種類なので、円筒の直径にあった柄パターンに限定されます。こちらでは、旅館やホテルのゆかたになる生地を、主にこの機械でプリントしているそうです。


ハンドプリントならハンドプリントだけといったように、もともと染工所は得意なものに特化するところが多かったようですが、全般的な国内の繊維産業の不振に伴い、こちらの染工所では、インクジェットによるデジタルプリントの設備こそありませんが、次第にいろんな種類の染めを手がけるようになったそうです。





こちらはゆかた用の小幅の生地にハンドプリントする様子です。作業台は生地が固定されるように、やや粘着性があります。こちらは生地は動かさずに、スクリーンをもって人が動きます。



最後に別の場所にある注染(ちゅうせん)の作業場を訪ねました。ここには機械はまったく存在しません、職人さんと道具の世界です。「ちゅうせんってどんな漢字ですか」なんて気楽な質問をしているこちらですが、おおぜいいる職人さんたちの間には、私語はまったくなし。

注染は明治後期に始まった日本独自の染色方法で、小幅のてぬぐい・ゆかたのプリントに利用されてきました。プリントが片面だけの模様であるのに比べ、注染は重ねて折り畳んだ生地にまとめて染料を注ぐため、裏表なく全体が染めぬかれます。通常旅館のゆかたは、コストの理由から、表面にだけ柄がついたプリントが多いのですが、裏からみても同じように柄が染色されているものは、注染染めで高級品だとのことです。


糊付けの職人さんが5人いて、畳まれた晒しの上に型をセットして糊をのばしています。糊付けの段階からすでに、どんな柄のものなら誰にやらせるとかというのがあるそうで、その割り振りをするのが工場長の仕事だそうです。
糊はデンプン、海草類などの天然成分だそうですが、いままで嗅いだことがないような匂いです。

この糊がついた部分は染まらず、染める部分には糊がありません。 糊をのばした後は、おがくずをまいた床に投げ出され、上に箒でおがくずがかけられるのですが、これは次の作業に移るまで、糊を保護するためのものです。 お相撲の力士の名前のはいったものがたくさんありました。




次の職人さんは、みんな染めの職人さんです。それぞれの職人さんが自分で使う染料も調合するので、ここでも職人さんによって得意なものが決まっています。微妙な藍色を表現するには、経験と熟練が必要だそうです。

染める段階で、色を変えるために、また糊を使ってで土手を作り、染料が混じらないようにします。また同じ一色のようであっても、微妙に色を混ぜ合わせたり、ぼかしなどの自然なグラデーションを表現することができます。そのため、じょうろは片手で持ったり、両手でいっぺんに注ぎ込んだりと、ここでも熟練の職人技が生きています。




そして最後に、ついた糊を激しく水洗いして落とします。

こういった注染工場もどんどん減っているそうで、こうした職人技の継承が危惧されています。
昔ながらの手ぬぐいや、ゆかたにとどまらず、なにか面白い利用方法があるのではないかと、製織会社の方との帰りの車で盛り上がったのでした。


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