工場見学

NO.12 France/リールの繊織工場



リネンバードで定番にしている2ストライプと呼んでいる生地があります。普通は赤のストライプなのですが、時によってはリネンバードのために特別な色のラインを注文しています。
ちょうどお願いしている紺色のものが織機にかかっている時期に工場見学に伺いました。
パリの北駅からTGVで1時間、ベルギー国境に程近いリールはフランス第4の大都市で周辺の町を含めると、人口100万人を超す規模です。かつては繊維、製鉄業などの産業都市として栄えましたが、今はフランスIT産業の中心地です。新しい駅の周辺では、旧市街とは対照的に、近代的で大規模なオフィス開発が行われています。


TGVやユーロスターが発着する、リール・ヨーロッパ駅、歩いて5分程のところにリール・フランダース駅があります。右の写真は、オフィス開発された駅周辺。


リールから海に向かって車で20分程のところに、今回訪問するC社はあります。この一帯はフランスの中でも、ベルギーにまたがるかつてフランダースと呼ばれた地域で、今もフラックスの栽培が盛んです。
「この辺りの家はみんな昔うちの会社の社宅だったんだ。」という通りを過ぎると、小さな町のほぼ中心に工場がありました。100年以上前からある工場屋もあって、そうした工場を中心にかつて町ができていたことを彷彿とさせます。




この工場の屋根は、典型的な19世紀末の工場建築だそうです。
真ん中のビルが最も古いビル、開いていた窓を新しくレンガで埋めたり。


各個人が時計を持たない時代、工場には必ず大きな時計がありました。保存のため、最近になってカバーを作りました。 応接室や事務所のあるビルの内装は、オリジナルのまま。年季のはいったオークの床とタイルの床のコントラストが美しい。





C社も設立がおよそ130年前の歴史のある織物会社ですが、現在の社長は8年前にこの会社を買いとった後、これまで精力的に事業の転換を図ってきています。ローテクの繊維産業にあって、集中と特化の必要性から、従来の織物技術をテクニカルファイバーの新しい分野に活用しています。現在の主力製品は、ゴムボートに使われる布地、自動車のエアーバッグの中にある結合部分の布地だそうで、軽くて強い生地の特性を生かし「とてもとても特化した分野でこっそりやっているんだよ。」と笑って教えてくれました。
こんなに離れると説明も聞き取り辛い、こちらが社長です。



その一方で、コットンとリネンを使った伝統的な織物業も続けています。こちらでは、リネン100%、リネン/コットンのメティス生地でも、どちらかといえば重量のあるアパレル以外で使われる素材を中心にしています。フランスの一流メゾン、H社やL社のバッグ、鞄の材料にも採用されているそうです。もちろんこれらは各メゾン特注のもので、今回の紺の2ストライプと同様(規模も価格も全然違いますが)、他の顧客にも販売はしていません。


この生地は、常にストックを持って販売している中でのベストセラー、各々の販売ロットは小さくとも年間で3万M売れるそうです。このラフなリネン100%の布はパン屋さんが買う特別な生地です。フランスのパン屋さんがどのようにパンを作っているのか知らず、何度も説明されたのですが、今ひとつよく理解できていないかもしれませんが、要するにバゲットの種をつくってオーブンで焼くまでの間寝かせるところに敷く布だそうです。洗濯はせず、使い捨てで1年に何回か買い換えるとのことです。


「このままの生地でケバとかついたりしないんですか?」って訊いたら、「だからフランスのバゲットは、特別な味がしておいしいんだよ。」ってまんざら冗談でもないような顔だったので、それ以上は訊けませんでした。
日本に帰って気になっていたパン籠を取り出してみると、やっぱりこの生地、これはカンパーニャの種を寝かせるためのものだったのねとやっと学びました。



紺ラインの2ストライプ。昔ながらのミミの処理ができるのは、古い織機だからこそ。この織機で60歳ぐらい、織り上げる速度はもちろんゆっくりです。普通はこんな風にミミは切られて、処理されるのです。紺の2ストライプ、来年はじめには届く予定です。



英語ではsalvaged hem (復旧されたミミ)などと呼ばれています。



古い織機の最大の問題は、機械が故障することです。コンピュータも使われていない機械の修理はシンプルですが、替えの部品がないので、部品から作ることも多々あるそうです。
年季の入った織機郡、稼動していないものもたくさんあります。



検反の様子はどこも同じです。どこでも女子の仕事のようではあります。
天然繊維を使った古典的織物工場屋と、テクニカルファイバー工場屋は、完全に遮断されています。というのも精密さを要求されるテクニカルファイバーに埃は厳禁だからです。2つの工場屋を行き来するのは社長だけ。



テクニカルファイバーのほうは、こんなに無機質な感じですが、そこは古い工場だけあって、什器にはかわいいものも使われていたり。
こちらの織機には埃なしと思いきや、こんなに出ているではありませんか。これは、ミミに使われるポリエステルの糸から出るケバです。
テクニカルファイバーの糸はすべて白色、「あれ、ゴムボートはたいてい黒ですよね?」なんてバカな質問を・・・。「それはコーティングしてあるゴムが黒色ってことだよ。」そういえば、下地となるテクニカルファイバーはゴムではない。なるほど、ゴムボートはすべてゴムで出来ているわけではなかったのですね。(もっと詳しく知りたい方は、http://www.zodiac.frで最終商品を見ることができます。)



資材置き場は織機の数が減ったので、ゆったりしています。リネン、メティス、コットン、テクニカルファイバーの糸が整然と並んでいます。リネンの糸は概ねイタリア産のものでした。



さてさてここにも煙突があったのですが、取り壊しの予定もないとのこと。工場ではもちろん使っていませんが、なんと携帯電話のアンテナの設置用に使用されているらしいのです。それでも携帯電話会社から受取る家賃は、煙突の維持費に比べると少額だとのことでした。



リールの街はクリスマスショッピングで賑わっていました。それをあて込んだ移動遊園地も、観覧車はなんの囲いもないので相当に寒いだろうと思うのですが、まるで寒さを喜んでいるような人びとのすごい歓声が広場にひびき渡っていました。


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