工場見学

NO.13 England/革靴工房



ゲールとよばれるすごい風の日でした。
ともだちのChristinaは一歩も外へ出ないでじっとしていなさいといいましたが、約束をしていたし、今度はいつ行けるかわからない。
ロンドンから西へ約2時間、コッツウォルドの絵に描いたような村々を走り抜け、ローマ人が作ったお風呂で有名なBathの近く、地図を見ながら約束の時間にたどり着きました。
Norton St. Philip の村に入ると目の前に古くておおきな宿屋がものすごい存在感!


後で聞いたところによると、イギリスでも最も古い宿屋のうちのひとつで、13世紀からこの地でひらかれていたウールの市におとずれる商人のために開かれました、そして記録によるとリネンの布も売られていたそうな…



さてAnn とChristopher夫妻は、ローマ人のいた時代からほとんど変わっていない技法で靴を作っている数少ないcordwainers(靴つくり職人)としてCrispian shoemakersをやっています。
石造りのコテッジにかけられたブーツの看板をたよりに、庭を入っていくと、物置のような建物からAnnといぬが出迎えてくれました。


自己紹介の後は早速、どんな靴を作りたいのか説明することに。子供のころからの偏平足に加えて、立ち仕事が続いてアーチがすっかり崩れ、内くるぶしの筋を痛めた筆者はイギリスで買い求めたアーチサポートの中敷を使っていました。これが調子いいのでこういう靴がほしいと訴えると、Annは

残念ながらそういう中敷はつくれないの。

とやおら自分のブーツを脱ぎ、取り出したのが同じ中敷。これを使うことを前提に作ることにしました。指は自由に動き、足首の前の部分はしっかりサポート、つま先で地面をけりやすいようほんの数ミリ踵を厚くしてもらうことになりました。





床に広げた紙のうえに中敷を置き両足で立ちます。鉛筆で足の輪郭をなぞり、踵の出具合も書き写します。メジャーで数箇所の寸法をはかり、その紙に書き入れてゆきます。こちらのほうが広がっているようね、といわれたのは痛みのひどい左足でした。なにやら判らないことも書き込まれています。デザインは5,6型。そのなかから甲を深く包んで一本のベルトで締める形を選びました。

私たちはヒールの高いものは作っていないのよ。で、色はどんなのにする?

茶色がほしい、明るすぎないやつ、しっかりした感じがいい。

Christopherが天井裏から3,4まいの素敵な皮をだしてきて

どれでもいいよ。

素材好きとしては俄かにわくわく感がたかまる瞬間です。
いちばんいい色艶の皮を選んで、一通りの注文は終わりました。





せっかく来たのだからfactoryをみていく?

というお言葉に、

もちろん。

お茶はいかが?

にも、もちろん

Yes, please!

物置の奥のさらに物置のようなところが作業場所でした。壁一面の道具や材料に道具好きの目は釘付けに。あまりじろじろ見ては失礼になるかもと自制をきかせてChristopherとお話をします。


ほとんどの工程は昔からの方法でやっているよ。一足を仕上げるのに3ヶ月かかるんだ。おいておく時間が必要だからね。こんなcraftsmanの仕事をする人はもうほとんどいなくなってしまった。

でも若い人たちで、手仕事を見直そうと考える人もいますよね?

そう、たまにやってくるけれど、一週間でできあがらないと満足じゃあないみたいだよ。こんな仕事は習うのに何年もかかるものなんだ。いまは、たくさん作るメーカーはほとんど中国で作っているらしいよ。日本にもcraftsman shipというものはあるのかい?

あります あります、伝統工芸。 Japanはごぞんじですか?ついこの間そのうるしのcraftsmanに聞いた話ですけれど、漆塗りの材料のうるしがいま中国で作られているそうなんです。

それはいいこと?悪いこと?

品質は良くない。でも本当の日本産の漆は手間がかかりすぎるため、作る人も少なく、値段が数倍もするんですって。伝統を守るのは、何しろ簡単じゃあないようです。


ところで日本には水の中も歩ける木の靴があるんだってね?
え!? ああ、下駄のこと。木の板の下に2枚の木の歯がついていて、取り付けた紐を指でこう挟んであるきます。指が自由に動くし裸足は気持ちがいいですよ。でもいまは普通は履かないなあ。
むかしはなんか女の人が小さい靴を履いていたらしいじゃない?
うーん、それは中国です。
そーか。
そんな話はイギリスにもあったんじゃない?
そーだっけ??



なんだか迷路にはまってきたので実況はこのあたりで。
外はもう暗くなり、犬たち猫たちにもおわかれを。今年の秋にフィッティングに来る約束をしておいとましました。
今日のお宿はBathの町外れのB&B。English breakfastが楽しみ。



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