Anniversary Box No.1~5

2013年春、リネンバードは10周年を迎え10個のAnniversary boxを作りました。 それぞれの箱が「旅」にちなんだストーリーを持つ、絵本のようなボックスです。
スタッフがテーマを決め、ストーリーを考え水彩と色鉛筆で絵を描きました。
箱はかたちも大きさもさまざま。10個揃った時に入れ子になる組み合わせがあったり、つながりのある箱があったりと、ちょっとした仕掛けをしています。

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No.1「linen bird」

その写真を見たのは10年前 私が旅を始めたばかりの頃だった
古びれたフレームに色あせて収まっており
誰とも語ってこなかったみたいに店の隅にひっそりとあった
どこまでも続くフラックスの畑に一羽の鳥
この風景はどこなのだろうという私の問いに どこにでもある景色だよ でもとてもうつくしいだろうと店主はこたえた
小さな花は一年に一度 朝の光の中に青く咲き 鳥は花が咲き始める頃に遠くからやってくる  ぽつぽつと花をついばんで 時折美しい羽を広げる
どこまでも続くフラックスの畑に一羽の鳥
その一瞬にめぐり逢うため私は今年も訪れる
さわさわと揺れる花畑に立ち土の香りをゆっくりとかぐ
目を閉じ耳を澄まし鳥がやってくるのを静かに待つ

No.2「それは、幸せな始まりの予感」

列車から降り行く人々は みんなとても幸せそうだ
手をつないだ親子も おしゃべりに夢中なご婦人たちも 立派な髭をたくわえた寡黙な紳士だって 幸福で甘く満たされた表情 
まるで、愛する人たちと囲んだ食卓の余韻に浸っているかのよう(本当に美味しいものを食べた後なのかもしれない)
列車に乗り込み 固いシートに座る
ゆっくりと目をとじる 遠くで子供の声がし オイルの匂いが微かにする
私にもあの幸せな表情が浮かぶことだろう
さあ今日はどこまで行こうか

No.3,No.4「太陽の街/石のカケラ」

猫は、とても気持ち良さそうに眠っていた。店番みたいにイスの上で丸くなっていた。 賑やかな市場の中、その猫だけは何も聞こえていないようだった。
小さな店には南の国の甘い果実や木の実にまじっていくつかの鉱石があった。 石は白くにぶい光を放ち、どれもいびつで不思議な形をしていた。 石をひとつ選び、木の実の袋を手に取り店内を見渡したが人の気配はない。
ダレモ、イナイヨと告げるように猫のしっぽがふわりと揺れた。 僕はコインを静かに置いて、石と木の実を持って店を出た。 猫はぐっすりと眠りこんだままだった。
午後になると強い光がさらに真っすぐ降り注ぎ この町のあらゆる影をくっきりとそして濃密に映し出す。  しっかりと温められたこの町の空気を肌で感じながらそのまま市場の奥へと進む。 採れたての緑の葉っぱと山盛りのナスやトマトの横を通りすぎ、ごろごろ転がる大きなスイカの角を曲がる。
大きなおばさんが笑って「今日のスイカはとっても甘いよ!」
カラフルな食器が店の奥まで続き 天井にいくつも編みカゴがぶら下がる店さきでのんびり本を読むおじさんに挨拶をする。
「お茶でも飲んでいくかい?」と眩しそうに誘ってくれる。
赤いスパイスの山がいくつも連なる店で市場の新鮮な野菜の香りとスパイスの香気が交じり合い 僕はお腹がとてもすいていることに気がついた。 買った木の実を一粒口に入れ、ポケットに手をやると白い石があった。
手のひらにのせ見つめていると、ひときわ輝く一粒の光があることに気がついた。 まるで広大な砂漠に人知れず湧きだす小さなオアシスのようだった。 もうひとつ、木の実を口にした。僕は甘い太陽の味で満たされた。

No.5「太陽の街/白い月」

「白い石のかけらを見つけたよ」
いつものように鳥は話しかけてくる、今日あったいいことをまず月に 広い海の前で鳥の声が小さく響いている
とても静かになった夜の太陽の街では人々は、明日のために早めの食事につき動物たちは、息をひそめて眠りにつく
熱を帯びた砂粒は緩やかな風にさらわれ 深く暗い海でゆっくり冷めてゆく
「きみにとてもよく似ていたんだ」
海に浮かぶ白い月は、静かにそれを聞いている

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