暗い画面に、恐ろしい顔つきのひげ面の大男が、いたいけな女の子をニタリと見据えながら、食事をしている。どう見ても、これからの希望が湧きそうにないが、女の子がにっこり笑っているのが気になる。人喰い鬼のような悪者退治には、強くて勇敢な若者か、賢い年寄りが、お似合いなのだが、この女の子は捕らわれの身なのだろうか・・・・
そう思いながら、絵本コーナーの片隅で、立ち読みを始めた。

お話の始まりは、この大男がどんなに残忍な人喰い鬼なのか、というところから始まる。朝ごはんに、子どもを食べるのが大好きだ。というところで、子どもたちは「ギクリ!」とするだろう。
しかし、ウンゲラーの絵には、残虐さを感じさせない何かがある。確かに、持っているナイフには、血が付いているし、抱えた包みからは、子どもの手らしきものがのぞいている。なんと恐ろしい。
場面変わって、ゼラルダの登場。ごくふつうの可憐な女の子である。普通と違うのは、とびっきり料理が上手だということ。父親が、彼女の料理を食べすぎて、具合が悪くなってしまうほどの料理上手だというから、かなりのやり手である。

ある日、この二人が、緊迫の場面で遭遇する。ゼラルダ危うし!いやいや、ここからは、ゼラルダの独壇場である。ちょっとマヌケなハプニングから、人喰い鬼のための、「セラルダグルメワールド」が展開される。次々と登場する料理のすごいこと。絵だけ見ると、なんてことはないのだが、聞いたことがあるような、ないような、その料理の名前が、かなりの絶品だということを物語っている。

子どもたちは、聞いたこともない料理の名前に「ポカン」としながらも、多分、すごくおいしい料理なんだろう・・・・と、半分感心した顔をするはず。「オランダガラシのクリームスープ」「マスの燻製ケイパー添え」「ポンパーノ・サラ・ベルンハルト」「七面鳥の丸焼きシンデレラ風」メニューを読み上げるだけでも、楽しくなる。

おいしいものは人を幸せにする。人喰い鬼でも、立派な紳士にしてしまうのだ。人喰い鬼の仲間たちも巻き込んで、ついに、街には平和が訪れる。このあたりの急展開は、ゼラルダの純粋な笑顔と共に、あれよあれよという間にすすんでいく。結局、暗い話と思いきや、いつの間にか、どこかユーモラスな昔話風に終わっていく。
最後には、とびっきりハッピーな結末。おいしい料理はハートをも掴むということなのだ。人喰い鬼の変貌といったら、ウンゲラーのユーモアにしてやられたと思う。

絵本コーナーの片隅で、ニタニタ、クスクス笑いながら、夢中になって絵本をめくっている私は、かなり不気味だったかもしれない。
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