私が、子どもたちを目の前にして、一番始めに考えることは、全員を、こちらに集中させるには、どうすればいいか、ということである。いろんな導入を試みるが、うまくいかないこともある。
それなのに、難なく、多くの子どもを集中させる単純なフレーズがある。
「昔、むかしあるところに」の一言だ。子どもに限らず、大人でも注目させることができる。これには、完敗だ。
昔話の人に対する威力は、私にとって、最も知りたい謎である。
「昔話を聞かされて育った子は、人生を生き抜く力が備わり、苦難に強い」といわれるが・・・・。
昔話は、子どもに何をもたらすのだろうか。確かに言えることは、どの話も確実に面白いということである。
子どもたちは、同じ話でも、何回も繰り返して聞きたがる。そして、語る人は、いつも同じ言葉や言い回しで語る。
「昔、むかしあるところに・・・・」「むか~し、あったげな・・・」

昔話を毎晩、誰かに語ってもらったことはあるだろうか?
今は、絵本で読み聞かせてもらうのが、普通のようだが、それぞれの土地や、地域には、いろいろなお話があって、幼い頃に、それを語って聞かせてもらった人もいるはずだ。今の時代、たくさんの昔話を語れる人は、少ないかもしれない。
では、自分の子どもに、お話を語って聞かせたことがあるだろうか?
「毎晩絵本の読み聞かせをしています」というお母さんはいるが、「毎晩、お話を語って聞かせています」という人には、いまだ出会っていない。

私が昔話をしようとするとき、三つのやり方がある。

昔話のやり方三つ

さて、どれにしようかと・・・
昔話をいろいろ思い起こすのも、楽しい時間ではある。
今月はまず、一つ目の「昔話を集めた本に頼る」、をご紹介したいと思う。

日本昔話百選表紙
「日本昔話百選」

子どもたちに日本の昔話をするときに、私にとって最強の本がある。「日本昔話百選」と名前は硬いが、中身は相当の癒しである。お気に入りの本なので、お母さん方にも、ときどき紹介はするが、この本を、本当に活用するには、よほどの覚悟が必要だと思う。
昔話を集めた本は、いろいろ出版されている。マンガものやら、地方別に分かれたものや、何巻にも分かれて収められているものまで。
私も、いろいろな本を手にとってみたが、この本ほど、語り手としてだけでなく、読んで楽しむのに、しっくりきた本はなかった。私にとっては、実質、昔話の参考書のようなものだ。

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私の二人の娘は本が好きです。特に上の娘は、いわゆる本の虫で、常時何冊かを平行して読み、活字であれば 新聞から包装紙までなんでも読む子供でした。長じていまは言葉の研究をしています。
さて、彼女がそんなに本が好きになったのは堺谷寛子さんが主催されていた「きらきら文庫」に1歳から6歳まで通っていたからなのです。三つ子の魂百までとはよく言ったものです。
堺谷せんせいの読み聞かせを輪になって身を乗り出して聴いていた子供たちの食い入る面持ち。
  私にとってはその情景はもう遠い昔のこととなりましたが、堺谷せんせいはその後もずっと彼らを恍惚の世界にいざなう仕事を続けています。
きっとせんせいは、子供たちのその眼差しの虜となっているのに違いないと私は思っているのです。




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