全国にある「ももたろう伝説」は、いろいろな語り口があり、少しずつ内容が違っていたりする。もともとは、古く大和朝廷の全国統一と、深くかかわっているらしい。「吉備津彦命(きびつほこのみこと)」という神話上の人物が、「ももたろう」その人であったとか。その時代から語り継がれたのだから、日本人なら誰でも、「ももたろう」の話を知っているのは、うなずける。
私の第二の故郷、香川県高松市にも、「ももたろう伝説」がある。高松の港から瀬戸内海沖を眺めると、「女木島」「男木島」という島が見える。そこは、別名「鬼が島」と呼ばれている。島には、洞穴がいくつかあって、鬼が、住んでいたらしい。鬼退治の現場だ。
また、高松には、「鬼無(きなし)」という町があって、そこは、「ももたろう」が、鬼の逆襲を受けたという場所。もちろん、「ももたろう」は、鬼を打ち倒すわけで、完全に鬼がいなくなったから、「鬼無」と名前がついたと言われている。
高松の本州側対岸の岡山にも、「ももたろう」伝説があって、「きびだんご」は、名物となっている。
この絵本の話は、青森県に伝わる「ももたろう」伝説に基づいているようだ。

赤羽末吉さんの絵は、1ページ1ページがすばらしい構図である。お話の進行上、強調すべきものは、大きさや位置に工夫を凝らして配置してあり、幼い子どもにも、時間経過や空間移動がよく分かる。象徴的な主人公、形をぼかしながらも、特徴を捕らえた動物たち、それぞれの描き方が、昔話の雰囲気を壊さない。バックは、白を基調にしたかと思えば、赤や紺色の大胆なページが目を引く。リズムのある文章に、実によくマッチしている。


 

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