子どもアートの窓



年少クラスの初日、お母さんに連れられて、子どもたちが、部屋に入ってくる。先生としては、思いっきりの満面の笑みを浮かべて出迎える。「こんにちわぁ!」
机に上に、大きなカレンダーの裏紙を広げておいた。その上に6B鉛筆をころがしておく。「何でも描いていいよ~」

おずおずと椅子に座る子どもたち。私の顔をじっと見ては、不安そうにお母さんの方を見る。そりゃ不安だろう。得体の知れない貫禄十分のおばさんが、「さあ、描け」とばかりに仁王立ちになっているのだから。子どもたちの目には、思いっきりの笑顔も、自分に何かをさせようとしているしたたかな大人の作り笑いにしか映っていないに違いない。いけない!いけない!やっぱり、子どもは遊びから入っていかなきゃなるまい。

仕方がない。鉛筆で遊ぶことにした。しゃがんで、子どもたちに目線を合わせ、鉛筆を転がして見せる。「コロコロコロ・・・・と言いながら。2本の鉛筆を打ち合わせて音を出す。「コンコンコン・・・」。鼻の下に鉛筆を挟んでみせる。頭の上で角にする。何やってんだ? と思っているうちに、とうとう鉛筆に手を出してくれた。やった!
手を動かして描いてみせる。じっと見ている子どもたち。
あとは、緊張しないように、私は、姿を消すことにした。「じゃあ、遊んでてね~」
ついたての後ろから様子を伺う。描いてる、描いてる。はじめは少しずつ、どんどん腕の振りが大きくなってくる。トントンたたいている子もいる。その調子、その調子・・・・。
得意になってお母さんの方を振り返ったりしている。「どうだ!」と言わんばかりに。思い切って、自由に描きまくってちょうだい!




6B鉛筆にしたわけは、色にとらわれないで、線を楽しんで欲しかったこと、どんな持ち方でも描ける形態であること。柔らかいから筆圧がいらないこと。
カレンダーを使ったのは、つるつるしていて、画用紙よりも気軽に描き味が楽しめそうだと思ったから。
クレヨンは、箱ごと置いておくと、色で楽しむ。サインペンは、にじんだり、かすれたりするのがいい。ボールペンは硬い書き味がいい。絵の具は一番なぐりがきがエスカレートしやすい。

正方形の紙、横に長い紙、縦に長い紙、丸い紙、ドーナッツ型の紙、雲形、メモ用紙、広告の裏紙。何も白くなくても良いじゃないか。新聞紙、折り紙、色画用紙、包装紙でもいい。




子どもの「なぐりがき」ぐらい、楽しくて癒されるものはない。3~4歳児のクラスでは、時間の始めには必ず、好きに描く時間を持つようにしている。
3歳ぐらいになれば、すでに描く気持ちよさを知っていて、何にでも描きたがるはず。遊びの一部だと思っているはす。
「なぐりがき」を十分楽しんできている子は、3歳ぐらいになれば、どんなわけのわからない形でも、それに意味を持たせるようになる。これは、ものすごい脳の働きだと思う。言葉が出てくることの次に、「ヒト」から「人間」になっていく重要な段階であると私は思っている。