第五回

絵本選びに、「訳者」にも目をむけるとよい、というお話でしたが、おすすめの訳者を教えてください。


30年以上読み継がれている絵本は、基本的に相当の力を持っている本だと思いますが、そういった絵本の中には、翻訳された外国の絵本も数多くあります。



この中には、素晴らしい訳者がそろっています。
まずは、みなさんもご存知の石井桃子さん。このシリーズでは『ふわふわくんとアルフレッド』『まいごになったおにんぎょう』、『こねこのぴっち』などがあります。


以前「本棚部屋」で紹介されていた「はたらきもののじょせつしゃ けいてぃ」がいしいももこさんですよね。こどもが、大好きな絵本です。


石井桃子さんが訳した絵本や児童文学は、それはもう、たくさんあって、言い出したらきりがないです。私は、『ビロードうさぎ』が大好きなのですが、この方が訳した絵本なら保証付のようなものです。

他には、どんな方に注目すればいいでしょうか。


『ひとまねこざる』の光吉夏弥さんも、大変すばらしい「おさるのジョージ」世界をつくりあげています。『岩波子どもの本』の中では、『ちびくろさんぼ』『はなのすきなうし』などは、何気ない言葉使いですが、言葉が軽快で、読むのが楽しくなってきますよ。

『ひとまねこざる』や『ちびくろさんぼ』は有名ですよね。


与田 凖一さん訳の、『まりーちゃんとひつじ』は、歌うような訳が、とてもかわいいですよ。『せんろはつづくよ』は、今、手に入りにくいですが、いい絵本です。


「岩波子どもの本」シリーズだけでも、こんなにあるのですから、他にも、たくさんいるのでしょうね。


ロバのシルベスターとまほうのこいし』の瀬田貞二さんや『かもさんおとおり』の渡辺茂男さんも、注目すべき訳者です。   ずいぶん以前から、子どもの絵本を訳し続けています。

長く生き延びている絵本は、昔の訳で、古いということはないですか。いい訳というのは、なにか基準があるのですか?

言葉は、生き物であって、世につれ進化するものですよね。読み継がれてきた絵本には最近は使わない言葉や、言い回しがあるかもしれません。でも私は、その言葉がまるっきり新しい言葉に置き換わることはないと思っています。たとえ古くても、美しい日本語や、昔からの言い回しも子どもたちに伝えていきたいですね。

なるほど、どんなに言い換えても、ニュアンスがついて来ないですものね。
いい訳というのは、どんな風にに生まれてくるのでしょうか?

外国語をよく知っているのはもちろんのこと、日本語についても、より知り尽くしていないとよい訳はできないですよね。さらに、子どもの気持ちを入れ込んで文章に練り上げていく必要もありますから、絵本の訳は、特別なむずかしさがあると思います。

そんな風に考えたこと、今までありませんでした。そうですね。訳した上、子どもに伝わる文に仕上げるのですものね。

たとえば、『せきたんやのくまさん』では、石井桃子さんが、くまさんが石炭を置く音を「ドカン、ドカン、ドカン」と表しています。読み聞かせをしていても、「ドスン」とか「ドン」とかいう通常の表現よりも、子どもにすごく響いていると感じました。

訳し方は、本当に重要なのですね。

絵本は繰り返し読むものですから、よく選んで、子どもたちに、いい言葉をしみ込ませていってほしいと思います。

物語などの、児童文学でも、訳は大事だといえますよね。

そうですね。先述の石井桃子さんや瀬田貞二さん、渡辺茂男さんの翻訳したものは、お子さんが、これから成長して物語本を読んでいくことを考えると、はずせない訳者の方々です。
海外のすぐれた絵本や文学を訳して、ずいぶんと長い間紹介を続けている方たちです。

英語以外の言葉からの翻訳もありますよね。

やっぱり原本の言葉によって、得意とする訳者の方が決まってきます。
中国の民話なら君島久子さん、ロシアの昔話は『てぶくろ』の内田梨紗子さんなどが代表的ですね。

もちろん、今回挙げた以外にも、すぐれた翻訳者の方たちはいっぱいいます。 絵本を選ぶとき、翻訳絵本なら、画家や作者も勿論ですが、訳者にも目を向けてみると、ひとつの選択材料になるかと思います。 絵本の中の言葉や、文章の言い回しにも、気をつけてみてください。読み聞かせをするのが、楽しくなってきますよ。